縄につながれて法廷に入ってきた犯人たち、私は初めて対面する3人です。
酒井は主人がニチメン㈱に入社したときからの上司でした。私は会った事はありませんが、長女が生まれた時は、「お祝いの品」をもらった覚えがあります。
酒井は、何の感情も顔に出さず、何食わぬ顔で裁判の途中も自分の「起訴状」などを眺めていました。その様子のどこにも、反省や謝罪の姿は見受けられませんでした。むしろ、近藤を片付けてよかった、と今でも思っているような表情だと、私には受け止められました。この法廷では、酒井には3人もの弁護士がついています。
酒井に指示され主人を拉致し、死に至らしめた実行犯の坂本は、時々、にたっと笑った表情さえ浮かべていました。見も知らない人間を、理由もなく、苦しめ、苦しめ、最後はぐるぐる巻きにした主人の「声が近所に漏れると困るから、もっとキツく拘束するように」と指示を出したのは彼です。彼が酒井からアルバイトで殺人を請け負わなければ、友達を誘わなければ、主人は殺されずに済んだのです。酒井が1人で主人に恨みを持っていたと言うだけで、この事件は起こらなかったのです。
我が家に謝りにきた坂本の両親は少なくともまともな親に見えました。本当に息子が大変なことをしてしまったと思っているように私には思えました。でも、その息子、坂本亮の顔を見て、警察の調書で彼が実際にしたことを聞いて、私は、彼の果てしない残虐さを知りました。
酒井と坂本、私はこの二人を絶対許しません。人の命の重さを理解できない人間は、おそらく、これからも人間の命の尊さを理解することはないでしょう。人の命よりも、今の自分の生活、自分の体裁が最優先なのです。それを邪魔するものがあれば、どんな方法をとっても排除しようと思うのです。どんな謝罪をされても、主人は二度と戻りません。被害者の家族には二度と幸せは戻らないのです。加害者には、自分の命で弁償してもらうしかないのかもしれません。
高橋は、坂本に誘われて主人の殺人にきちんと「参加した」人間です。主人を会社からの帰宅をずっと尾行し、自宅前で待機していた実行部隊に駅から電話を入れました。ぐるぐる巻きにした主人の身体が大きすぎて、酒井が用意した「スーツケース」に入らなかったので、近所のマンションから「ポリバケツ」を調達(盗み)した人間です。大学も卒業し、一時はちゃんと仕事もしていた人間が、今回のような凶悪な殺人事件に「積極的に」、「報酬を受け取って」参加する、この「不可解さ」が、今回の事件の大きな焦点であると、私は思います。彼らを許してしまったら、日本は若者の大犯罪国になってしまいます。
普段、私たちの回りに、普通に生活している人間が、ある日突然、簡単に何も考えず「人殺し」に加担し、自分がしたことに対し何も感じないのです。
裁判は辛い場所です。傍聴してくれた友人は「人の命が亡くなったことを争っているのに、裁判官はなぜ、あんなに笑っているのだろう。被害者の心からの叫びに対しては、傍聴席は騒がないようにと注意するけど、少しも反省もしていない犯人たちに対しては甘すぎる。この国の裁判のあり方はおかしい。」と言っていました。裁判の場所は「命」の話をしている所ではなく、まるで一本の傘の忘れ物をどうするか皆で考えてでもいるような、あまりにも軽い場所と、私には映りました。
そんな苦しい中、少し嬉しいこともありました。以前、主人と外国で一緒に仕事をした方や、酒井も主人もよく知っている方など、裁判の後、私に声をかけてくれました。皆さん、ご自分の立場が辛いでしょうに、よく、裁判の傍聴にいらしてくださいました。家族としては、主人がしてきた仕事の内容は何もわからないのです。どうぞ、少しでも情報が有る方、主人と酒井の関係をご存知の方、私にお話ください。お願いいたします。
裁判には、私を応援してくれる子育て真っ最中のお母さんたちが、毎回何人も来てくれます。そのお母さんたち皆が言います。「犯人の親たち、酒井の奥さんや兄弟はあまりにも責任を取らなさ過ぎる。もしわが子がこんな事件を起こしたら、遺族に向かい心から詫びて、どうぞ遺族の方の気が済むような罪に我が子を罰してください、と言い、自分が死ぬまで償い続けるだろう」そんな考え方をする家族は、今回の加害者の中には、おそらく、いません。
地裁で主人を殺した殺人鬼を3人も見た後、走って中野区役所に戻り仕事でした。今日は大切な議長選があり、結局翌日午前1時過ぎまで、区役所に拘束されました。
前日朝、早くに出て行ったままのテーブルには子どもたちが宅配のピザを取って食べたあとがありました。帰宅後、夜中の3時近くまで後片付けをして、子どもの隣で横になると、あんな残虐な人間たちにこの子達の最愛のお父さんを殺されたことが悔しくて、悔しくて、涙が出て、いつまでも寝付かれませんでした。