何度経験しても、裁判の場は辛いものです。殺された主人の無念さ、悔しさ、悲しみが傍聴している間中、大きな波のように襲いかかり、息苦しく、崩れそうになります。
そんな場に、いつも忙しい時間を割いて同席してくださる方々、心から怒り、悲しんでくださる皆さん、本当にありがとうございます。
一方、加害者の親は、被害者家族に会っても謝罪をするでもありません。ロープに繋がれて法廷に入って来る自分の息子を見て泣いている家族もいますが、それは自己保身です。苦しくて悲しくて涙も涸れ果て、それでもこの辛い現実を受け入れて生きて行かなくてはならない被害者の気持ちは、加害者家族に伝わることはないのです。
この日の裁判は、沢田将基に拉致を依頼した坂本亮の証言でした。坂本亮自身は主犯の酒井裕、高橋祐介と「殺人罪」で起訴され、こちらの裁判も進行中です。
酒井に近藤浩を拉致することを依頼された坂本は、3〜4年前アルバイト先の麻雀店で知り合った沢田に携帯メールをします。そのメールに対し、沢田が「忘年会のかたちで飲みましょう」と言う内容の返信をします。すべてはそこから始まりました。
特に普段親しく付き合っているというわけでもないふたりの若者が交わした、1通の携帯メールのやり取りから、内容のはっきりしない10万円のバイト「殺人の手伝い」が始まったのです。
坂本は最初、酒井から「近藤浩を拉致して荻窪の家のそばまで連れてくれれば、待機していて連れて行く」と言われたそうです。ところが、酒井は翌朝まで来ないことになり、計画が変わってしまった。坂本と高橋は初めから酒井が近藤浩の殺戮を考えている事は充分承知で、坂本は「(近藤浩を酒井に)引き渡した後で、(酒井が)一人で殺ってくれればいい」と思っていた、と何度も話していました。
理由も知らず、見も知らない人間に襲いかかり、息もできないほどぐるぐる巻きにし、命を奪った若者たちは、自分の「知人」には「誘い込んで悪い事をした」と思っているようです。「内輪」に対しては、少しの優しさと、少しの思いやりがあるのでしょう。
その一方、自分たちの暴行により死に至らしめた主人に対してはどうでしょう。最初から「知らない人」であり、それは「物」と同じなのです。「殺してしまった」罪悪感も謝罪の気持ちも、今も彼らの中にないのです。「内輪」の世界しか見ない、考えない、若者、そしてその親たちの集まりです。この若者たちが、このまま生きて行けば、必ず同じ事を繰り返す、私にはそう思えてなりません。
今回証言台に立った坂本亮自身の裁判は23日の午後開廷されます。
6月23日(木)午後1時30分から4時30分 東京地裁第531号廷
酒井裕、坂本亮、高橋祐介、逮捕監禁殺人罪
今回は、高橋の質問と情状弁論、坂本の質問か情状弁論予定です。